観光スポットとしても楽しい灯台、現代の役割は?
あなたは「灯台」と聞いて、どんな姿を想像しますか?きっと、岬に建つ白い塔をイメージすると思います。
島国である日本には、至る所に灯台が設置されています。元々は航路標識としての役割を担う灯台ですが、青空に浮かぶ真っ白な灯台がフォトジェニックであり、近年では日本の代表的な観光スポットにもなっています。私も旅するところに灯台があれば訪れ、大海原に向かって建つ灯台の風景を楽しんでいます。
一方で、現代では GPS も発展しました。飛行機の計器、自動車のカーナビ、もちろん、船舶の航路についても。乗り物のあらゆる経路確認には GPS が用いられ、活用されています。
そんな現代において、灯台はどんな役割を果たしているのでしょうか?
本記事では、現代における灯台の役割についてご紹介します。
灯台とは?
灯台(とうだい) とは、海上を航行する船舶のために光や電波を発し、安全な航行を支援する施設です。一般的には海岸線や岬、港の入り口、暗礁が多い場所に設置されます。灯台は、夜間や悪天候時に船舶の位置を知らせ、危険な海域を避けるための重要な目印となります。
灯台の主な特徴
1. 位置
- 海岸線や岬の先端、暗礁の近くなど、航行の目印となる場所に建設される。
- 港の入口には、船を安全に誘導するための灯台が設置されることが多い。
2. 光の仕組み
- 光源:かつては石油ランプやアセチレンガスを使用していましたが、現在ではLEDやハロゲンランプが主流になっています。
- レンズ:フレネルレンズ(通常の厚いレンズと同じ集光効果を持ちながら、薄く軽量に作られた特殊なレンズ)を使用し、光を遠くまで届かせる。
- 光のパターン:灯台ごとに異なる点滅の間隔や色を持ち、船舶はその特徴を頼りにどの灯台かを識別できる。
3. 電波と音による支援
- 無線標識(ラジオビーコン):船舶が灯台の位置を電波で受信できるようにするシステム。
- 霧笛・霧信号(フォグホーン):濃霧時に音を鳴らし、船舶に位置を知らせる装置。(光と位置情報だけでなく、音でも位置を知らせている!)
灯台の歴史
- 古代:世界最古の灯台は紀元前3世紀に建てられたアレクサンドリアの大灯台(ファロス灯台)。
- 中世~近世:石造りや木造の灯台が建てられ、灯火が使われるようになる。
- 19世紀:フレネルレンズの発明により光の到達距離が飛躍的に向上。
- 20世紀以降:電灯の導入とともに、自動化・無人化が進む。
灯台の役割
灯台の役割は、主に以下の3つに分けられます。
1. 船舶の安全航行を支援する
- 灯台は海上のランドマークとして機能し、船舶が夜間や悪天候時に安全に航行できるようにします。
- 灯台の光(灯光)はそれぞれ異なるパターン(光り方、色、間隔)を持ち、船がどの灯台を見ているかを判断する手がかりとなります。
- 一部の灯台には霧笛(フォグホーン)が設置され、視界が悪い時でも音で位置を知らせます。
2. 危険な場所を知らせる
- 暗礁、浅瀬、海岸線などの危険なエリアを船に警告します。
- 灯台の位置自体が危険な場所を示すため、船はそのエリアを避けるように航行できます。
3. 港への案内
- 船舶が安全に港に入港できるよう、目印としての役割を果たします。
- 特定の港湾には「導灯(どうとう)」と呼ばれる一対の灯台があり、船がそのラインに沿って進むことで安全に入港できます。
現代における灯台の役割について
さて、ここまで灯台の本質的な役割を見てきました。では現代では、灯台はどんな役割を担い稼働しているのでしょうか。
現在では、GPSやレーダーの普及により、船舶は灯台がなくても航行できるようになりました。しかし、電子機器のトラブルや GPS の届かない地域では、灯台は依然として重要な役割を果たしています。
日本では多くの灯台が無人化されていますが、観光名所としての価値も高まり、一部の灯台は一般公開されています。私達が観光で訪れるように、灯台はその役目を終えたとしてもなお、私達に浪漫を与えてくれています。もちろん、一般公開しつつ、灯台として現役で稼働し続けている灯台もあります。
近年では、GPS などの航行支援システムの発達により、灯台の重要性は以前と比べて相対的に低下していることも事実ですが、それでも航行の安全を確保するための重要なバックアップシステムとして機能し続けています。
専門家に聞く!現代における灯台の役割について
この記事を執筆するにあたり、灯台・航路標識のプロフェッショナルである 公益社団法人 燈光会 さまに現代における灯台の役割についてお話を伺いしました。
(質問回答はメールでいただきました。燈光会事務局さま、お忙しいところご対応いただきありがとうございました。)
灯台の役割につきましては、150年前と変わっておらず、位置情報の提供が基本的な役割です。
機械的な部分は更新されていますが、電球(光源)の光をレンズで収束(増幅)して発するという機能は、150年前と変わっていません。
位置情報の提供において、大切なのが、航海者が「灯台として見分けられること」、「灯台の位置等が明確であること」になります。
「灯台として見分けられること」については、日中においては、航海者から見て景色に埋没しないよう、多くの灯台が白く塗られています。(昼標効果と呼んでいます)
夜間においては、灯台の発する光で見分けることとなりますが、灯台によって光り方が異なるため、それによりどこの灯台か見分けることができます。
「灯台の位置等が明確であること」については、灯台の位置、光り方(灯質)、色等については、政府が発行する官報に掲載され、また海上保安庁が発行する海図、灯台表に記載されています。
これにより、航海者は視認する灯台が、何という灯台で、どの位置にあるかを正確に知ることができ、航海指標として利用することができます。
航海指標としての利用方法は、海上において、航海者が自船の位置を知ることですが、その具体的な内容については、当会ホームページの「航路標識の話」の中に説明がありますので、参考にしてください。
また、船舶の航海においても、航空機と同様に、ウェイポイントで針路を変えて(変針)して次のウェイポイントに向かうといった航海を行いますので、灯台はウェイポイントの目印として重要な役割があり、船舶から見て、〇〇灯台を何度に見るポイントで変針するといった使われ方は、現在でも一般的に行われています。
また、同じような使われ方で、「〇〇灯台を何度に見て陸岸に近づくと、浅瀬があるので危険」といった使われ方もあります。
港の防波堤に設置されている灯台は、港の入口や防波堤の存在を示す機能もあります。
いずれにしても、灯台の位置情報の提供の機能を利用した使われ方となります。
位置情報以外では、主要な灯台における気象情報の提供といった機能もあります。
気象情報の提供は、元々灯台に勤務していた職員が手動観測により提供していたものですが、現在自動化されて行われています。
灯台で観測された気象状況(風向、風速、波高など)は、一般的な気象観測データと異なり、航海上の拠点データとして、航海者にとっては不可欠な情報となっています。
上記で説明したように、灯台は位置情報の提供が基本的な役割ですが、GPSの登場により船舶は世界中どの海域においても自動的に位置が分かるようになりましたので、いちいち灯台の位置から自船の位置や針路を求めるような手間は省けるようになりました。
当然これにより灯台の必要性も低下しつつありますが、航海者は依然として目視航海 を基本としていますし、仮に先進的な航海機器がブラックアウトしても航海が続けられるよう、航海者の基本的技能として、灯台の位置情報から自船の位置を求める能力は必要とされています。
近年は、幕末から明治期の文明開化と共に造られた歴史的灯台を、地域の歴史的・文化的遺産として保存し、観光資源としても活用しようという動きが活発化してきています。
こうした流れは、灯台の本来の役割ではありませんが、海運国である我が国の海上輸送を支えるために先人たちが心血を注いだ証として後世に引き継ぐという意味では、とても重要な役割を果たしていると考えられます。
実際に上れる!日本の灯台 16 基
現在日本には、実際に上ることができる灯台が 16 基あります。
美しき灯台のある風景の先にある、今も変わらない重要な任務
近年では GPS やレーダーなどの航行支援技術が発展しましたが、電波が届かないエリアや、システム障害が発生した場合のバックアップとして、灯台は今も重要な役割を担っています。
また、航路標識としての役割以外にも、私達のような素敵な風景を楽しみたい旅行者に向けて灯台を観光スポットとして整備し公開しているところもあります。
GPS やレーダーなど、位置情報技術が発達した現代でもその重要性は変わらず、大陸の先端で荒波に負けずに航行者の安全を守り続けている灯台。
観光で訪れる私達も、そのことを想像しながら灯台と接するとより灯台観光を楽しめると思います。灯台のある美しい風景を眺めながら、その先にある灯台の使命について思いを馳せたいですね。